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要点
  • シンガポールのGST(財・サービス税)税率は現行9%で、2026年時点で追加の税率変更は発表されていません。
  • 海外事業者に登録義務が生じる「OVR(Overseas Vendor Registration)制度」は、①グローバル年間売上、②シンガポール向けB2C供給額という2つの閾値を両方超えた場合に発生します。
  • S$400以下の物品(LVG=低価値物品)を対象としたオンライン越境ECは、OVR登録の対象範囲に含まれており、登録事業者は販売時点でGSTを徴収する仕組みになっています。

2026年7月時点の情報です。税務判断は必ずIRAS一次情報および専門家にご確認ください。

①

GSTの基本(現行9%・改定履歴)

シンガポールのGSTは、日本の消費税に相当する間接税です。現行税率は9%で、2023年1月1日に7%から8%へ、2024年1月1日に8%から9%へと段階的に引き上げられてきました。Budget 2026においても税率の変更は発表されておらず、現時点で9%が据え置かれています。

越境ECに関わる日本企業にとって重要なのは、GSTが「シンガポール国内で消費される財・サービス」に広く適用される税であり、シンガポールに現地法人や物理拠点を持たない海外事業者であっても、一定の条件を満たせば納税義務者(登録事業者)になり得るという点です。この「海外事業者に対する登録義務」を定めているのが、次章で解説するOVR制度です。

②

OVR制度とは

OVR(Overseas Vendor Registration=海外事業者登録制度)は、シンガポール国外の事業者がシンガポールの個人消費者(B2C)向けに一定規模以上の供給を行う場合に、GST登録・徴収・納付を義務付ける制度です。

登録義務が発生する閾値は次の2条件を両方満たした場合です。

  • グローバルでの年間売上(12ヶ月ローリング)が S$1,000,000超
  • シンガポール向けのB2C供給(リモートサービスおよびLVG)が S$100,000超(同じく12ヶ月ローリング)

両方の閾値を超えた場合、事業者は30日以内に登録を行う必要があります。対象となるのはB2C供給に限られ、B2B取引はOVRの対象外です(B2B取引の扱いは後述のリバースチャージを参照)。

もともとOVRはデジタルサービス(リモートサービス)を主眼に導入された制度でしたが、2023年1月1日から低価値物品(LVG)にも適用範囲が拡大されました。これにより、越境ECで物品を直接シンガポールの消費者に販売する日本企業も、制度の射程に入ることになりました。なお、OVR登録にあたって現地法人の設立は必須ではなく、オンラインでの登録手続きが可能です。

③

低価値物品(LVG)とS$400基準の仕組み

LVG(Low-Value Goods=低価値物品)は、CIF(運賃・保険料込み)ベースでS$400を超えない物品を指します。シンガポールでは、S$400以下(かつ酒・タバコなど規制品を除く)の航空便輸入について、従来は輸入時のGSTが免税扱いとなっており、輸入許可証も不要とされていました。

この「S$400以下は輸入時課税されない」という制度上の隙間を埋めるために設計されたのが、OVRのLVGへの拡大です。具体的な流れは次のとおりです。

  1. OVR登録済みの海外事業者(または登録が義務付けられる規模の事業者)が、シンガポールの消費者にLVGを販売する
  2. 事業者は販売時点でGSTを徴収する(輸入時ではなく、購入時に価格へ上乗せする形)
  3. 事業者は徴収したGSTが支払済みであることや、GST登録番号(GSTN)などの情報を、配送を担う物流事業者に伝達する義務を負う

つまり、S$400以下の物品であっても「税がかからない」わけではなく、輸入時点での課税から販売時点での課税へと徴収のタイミングが移された、という理解が実務上は適切です。

④

自社は登録が必要か — 4つの典型パターン

OVR制度の適用有無は、自社のビジネスモデルとシンガポール向け売上規模によって変わります。IRASおよびSingapore Customsの一次情報から導かれる典型的な整理は以下のとおりです(個別の日本企業向けガイダンスとしてIRASが明示している内容ではなく、制度上のルールから帰結される一般的な分類である点にご留意ください)。

登録が必要になりやすいケース

  • シンガポールの個人消費者に対して、S$400以下の物品を直接発送する越境EC事業を行っており、かつグローバル年間売上がS$1,000,000超、シンガポール向けB2C供給がS$100,000超の両方に該当する場合
  • シンガポールの個人向けにリモートサービス(デジタルコンテンツ、SaaS等のB2C提供)を行っており、同様に両閾値を超えている場合

登録が不要になりやすいケース

  • (a) 取引先がシンガポールの事業者であり、B2B取引に該当する場合(この場合はOVRの対象外で、購入側がリバースチャージにより処理します)
  • (b) シンガポール向けB2C供給額がS$100,000以下にとどまっている場合
  • (c) グローバル年間売上がS$1,000,000以下にとどまっている場合
  • (d) 現地の卸事業者・代理店を介して販売しており、現地バイヤーが輸入・申告主体となっている場合(日本企業自身がシンガポールの消費者に直接販売していない場合)

自社の取引が上記のどのパターンに近いかを見極めるには、①取引相手が個人(B2C)か事業者(B2B)か、②物品かサービスか、③シンガポール向け売上の実額、の3点を整理することが出発点になります。閾値付近にある場合や、複数の販売チャネルが混在する場合は、判断が複雑になりやすいため、専門家への確認をおすすめします。

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登録後の実務

OVR登録が完了した後は、通常のGST登録事業者と同様に継続的な実務対応が発生します。

  • 申告頻度: 四半期ごとの申告が基本で、各四半期の期末後1ヶ月以内に申告を行います。
  • 記録保存: 取引記録は5年間の保存が必要です。
  • 罰則: IRASの案内では、登録が遅延した場合、最大S$10,000の罰金に加え、未納GST額の10%相当の課徴金が課され得るとされています。ただし、自主的に申告・是正した場合は課徴金が通常免除される取り扱いとされています(この場合も、過去に遡って発生していたGST自体の納付義務は残ります)。この点は一次情報でも運用上の裁量に関わる部分のため、実際の対応にあたってはIRASへの確認、または専門家への相談をおすすめします。

登録・申告・納付という一連のプロセスは、シンガポールに拠点を持たない海外事業者にとっても発生し得る継続的な義務であるため、越境EC事業を継続的に行う場合は、社内の経理・法務体制の中に組み込んでおくことが望ましいと考えられます。

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2026年の動き

Budget 2026において、GST税率9%は据え置かれており、税率面での新たな変更は発表されていません。

一方、電子インボイス制度については動きがあります。IRASの案内では、2026年4月1日以降に新規で任意のGST登録を行う事業者については、InvoiceNow(電子インボイスネットワーク)の利用が必須化されるとされています。また、全てのGST登録事業者への完全義務化は2031年を予定しているとされています。これらのInvoiceNow関連のスケジュールは今後変更される可能性もあるため、最新情報は一次情報での確認が推奨されます。

OVRの登録閾値やLVGの定義(S$400基準)そのものについては、現時点で変更の情報は確認されていません。

 

用語解説

OVR(Overseas Vendor Registration/海外事業者登録制度)

シンガポール国外の事業者が、シンガポールの個人消費者(B2C)向けにリモートサービスまたは低価値物品(LVG)を一定規模以上供給する場合に、GST登録・徴収・納付を義務付ける制度。グローバル年間売上S$1,000,000超、かつシンガポール向けB2C供給S$100,000超の両方を満たした場合に、30日以内の登録が必要です。

LVG(Low-Value Goods/低価値物品)

CIFベースでS$400を超えない物品。航空便輸入の場合、S$400以下(酒・タバコ等の規制品を除く)は従来輸入時のGSTが免税とされてきましたが、OVR登録事業者はこの区分の物品について販売時点でGSTを徴収する仕組みになっています。

リバースチャージ(Reverse Charge)

B2B(事業者間)の輸入サービス取引において、供給側(海外の売り手)ではなく、受領側(シンガポールの買い手)がGSTの申告・納付責任を負う仕組み。2020年1月に導入され、2023年1月にLVGを含む形で適用範囲が拡大されました。B2B取引はOVRの対象外であるため、日本企業がシンガポールの事業者と直接B2B取引を行う場合は、基本的にこのリバースチャージの枠組みで処理されます。

 

出典

  • IRAS「Current GST rates」 https://www.iras.gov.sg/taxes/goods-services-tax-(gst)/basics-of-gst/current-gst-rates
  • IRAS「GST and Digital Economy — Overseas businesses」 https://www.iras.gov.sg/taxes/goods-services-tax-(gst)/gst-and-digital-economy/overseas-businesses
  • Singapore Customs「Overseas Vendor Registration Regime」 https://www.customs.gov.sg/businesses/customs-schemes-licences-framework/iras-schemes/overseas-vendor-registration-regime/
  • IRAS「Do I need to register for GST」 https://www.iras.gov.sg/taxes/goods-services-tax-(gst)/gst-registration-deregistration/do-i-need-to-register-for-gst
  • IRAS e-Tax Guide(Reverse Charge, 2nd edition)

Published by TNGAP Editorial · 最終更新: 2026年7月

本記事は一般情報であり、税務助言ではありません。個別の税務判断は必ずIRAS一次情報および専門家にご確認ください。

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